特集

特集5:清酒酵母の系譜

第1部:清酒酵母の基礎

【清酒酵母とは】(日本酒造りのために選ばれてきた酵母)

日本酒の醪から初めて分離
➡
「Saccharomyces sake Yabe」
として発表
1895年(明治28年)分離 / 1897年(明治30年)発表
▼
日本酒の発酵の主役

清酒酵母 (せいしゅこうぼ)

サッカロマイセス・セレビシエの一種 低温下での発酵に強い 20%もの高濃度までアルコールを生成

酵母は、主に母細胞から娘細胞が芽を出し(出芽)、分裂することによって増える微生物(菌類)の総称。ワインにはワイン酵母、ビールにはビール酵母と、目的に合った菌株が長い歴史の中で選ばれ使い分けられてきた。日本酒造りに用いる清酒酵母は、低温下での発酵に強く、20%もの高濃度までアルコールを生成し、優れた香気を生むものが年月をかけて選ばれてきた。姿はニワトリの卵のような楕円形で、長径は10ミクロン、小さいものは5ミクロンほど。日本酒造りの中で2万倍に増殖し、醪1gに約2億個も含まれるようになるという。教本P100-102

▼ 発見と分類

1895年(明治28年)
清酒酵母の初分離
清酒酵母が日本酒の醪から初めて分離される。
1897年(明治30年)
「Saccharomyces sake Yabe」として発表
「Yabe」は、この酵母の最初の発見者である矢部規矩治博士の名を冠したもの。
2001年(平成13年)
酒類総合研究所の系統図
酒類総合研究所がサッカロマイセス属の酵母を調査し、系統図を作成。1号から5号までの酵母は、6号以降の酵母とは系統が異なることが明らかになった。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

麹菌と酵母の共同作業

麹の酵素が白米のでんぷんやタンパク質、脂肪を分解し、酵母はでんぷんから分解されたブドウ糖をアルコールと炭酸ガス(二酸化炭素)に換えます。清酒酵母は高アルコール濃度下でもアルコールを造り続け、多くの香気成分や味成分も作り出します。「一麹二酛三造り」の第二に挙げられる酛(酒母)、つまり多量に培養される酵母の力も、酒の出来に大きく影響します。

Point 2

焼酎・泡盛の酵母に近い

清酒酵母は、ワイン酵母やビール酵母、パン酵母と同じサッカロマイセス属のサッカロマイセス・セレビシエの一種に分類されます。DNA解析の結果、セレビシエの中でもワイン酵母やパン酵母より、焼酎や泡盛の酵母のほうが清酒酵母に近いことが明らかになっています。

Point 3

系統図で見るきょうかい酵母

2001年の系統図では、7号・9号・10号・12号・13号・14号・15号はかなりよく似た酵母で区別ができず、6号はこれらに近いけれどやや異なり、11号もやや違う酵母とされました。また、3号と5号は近く、1号と4号はやや近いものの、1号から5号までは6号以降と系統が異なります。

【きょうかい酵母と泡なし酵母】(日本醸造協会が頒布する酵母の歩み)

良酒を醸すと評価された
蔵元の醪など
➡
純粋分離・発酵試験で選抜
1906年(明治39年)頒布開始 / 1917年(大正6年)番号を付記
▼
(公財)日本醸造協会が頒布

きょうかい酵母 (登録商標)

(公財)日本醸造協会 末尾「01」は泡なし酵母 アンプル・乾燥酵母で販売

良酒を醸すと評価された蔵元の醪などから酵母を純粋分離し、発酵試験を行って選抜する作業は古くから行われてきた。こうして選ばれた酵母は、(公財)日本醸造協会から「きょうかい酵母」(登録商標)として頒布されている。各県などの研究機関での独自の開発も盛んで、毎年その種類は増えている。教本P101

▼ 頒布の歩み

1904年(明治37年)
国立醸造試験所の設立
現在の酒類総合研究所。
1906年(明治39年)
灘「櫻正宗」の酒母から分離し、頒布を開始
限定的な頒布で、担当は日本醸造協会の前身の醸造協会。以降、安全性と香味に優れた清酒酵母が求められるようになり、培養・頒布事業が本格化する。
1917年(大正6年)
番号の付記
販売する「きょうかい酵母」に番号を付けて提供し始める。
1935年(昭和10年)
6号の登場
その発酵力と芳香により、広く使われるようになる。
戦後
7号が大量生産期を支える
1946年(昭和21年)に分離された7号が、戦後の大量生産期を支えた。
現在
主流は7号と9号、その関連酵母
701号や901号などの関連酵母も含め、伝統的な酵母で醸した酒には安定感があり、夏を越して香りは低く落ち着いても、味わいがぐっとよくなる(「秋上がりする」と表現される)といわれることが多い。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

末尾「01」は泡なし酵母

種別番号の末尾の「01」は、酒母や醪の発酵の際に高泡を形成しない性質をもつ「泡なし酵母」を表します。601・701・901・1001・1401号は、それぞれ6・7・9・10・14号を親株とし、一般的な清酒酵母の1億個に1個ほどの割合で存在するといわれる変異株を分離・育成したものです。性質は親株とあまり変わらないとされます。

Point 2

泡なし酵母の利点と「泡あり酵母」

醪の高泡の期間中(数日から1週間ほど)に昼夜にわたって泡消し器を動かす必要がないこと、泡立ちの高さを見越して仕込み量を減らす必要があまりないこと、仕込みタンクの内部の洗浄が少し楽なことなどが利点です。一方、泡の表情の変化で発酵を確認することや、泡があることで生み出される微生物にとっての環境などを重視する蔵では「泡あり酵母」を選びます。

Point 3

アンプル1本で一升瓶830〜1660本

最も一般的な販売スタイルは、小さなアンプル(無菌・清浄な状態で酵母を保存するための密閉式のガラス容器)に詰めたもの。日本醸造協会によれば、1本に約200億個の酵母が詰められていて、700〜1500kgの原料米を発酵させ、およそ1.5〜3kl、一升瓶にして830本から1660本の純米酒を造ることができるそうです。

Point 4

清酒用乾燥酵母(701号・901号)

酒母工程を不要にする「清酒用乾燥酵母」として、701号と901号も販売されています。乾燥した粉状で保存が利き、製造期間の短縮と省力化、コストダウンなどがメリットとされます。

▼ 泡なし酵母と親株

泡なし酵母 親株 分離・実用年
601号6号1973年(昭和48年)
701号7号1969年(昭和44年)
901号9号1975年(昭和50年)
1001号10号1984年(昭和59年)
1401号14号1999年(平成11年)

1501号も泡なし性(旧きょうかい15号)。詳しくは下の「1501号」を参照。教本P101・P103

第2部:伝統的なきょうかい酵母の系統

【伝統的なきょうかい酵母 一覧】(教本の表の21種)

酵母名 分離・実用年 分離元・由来(別名) 系統・その後
1号1906年(明治39年)灘「櫻正宗」の酒母現在は頒布されていない(櫻正宗で復活醸造)
2号1912年(明治45年)伏見「月桂冠」の新酒現在は頒布されていない
3号1914年(大正3年)広島・醉心山根本店「醉心」の新酒現在は頒布されていない
4号1924年(大正13年)広島の蔵元の酒母または新酒とされる現在は頒布されていない
5号1925年(大正14年)広島・賀茂鶴酒造「賀茂鶴」の酒母現在は頒布されていない
6号1935年(昭和10年)秋田・新政酒造「新政」の醪(新政酵母)6号以後のきょうかい酵母の祖
601号1973年(昭和48年)6号の泡なし変異株6号系統
7号1946年(昭和21年)長野・宮坂醸造「真澄」(真澄酵母)現在も最も販売数が多い
701号1969年(昭和44年)7号の泡なし変異株7号系統(乾燥酵母も販売)
8号1960年(昭和35年)6号の変異株とされる1978年に頒布終了
9号1953年(昭和28年)頃熊本県酒造研究所の保存株(香露酵母・熊本酵母)吟醸酵母の定番
901号1975年(昭和50年)9号の泡なし変異株9号系統(乾燥酵母も販売)
KT901号2008年(平成20年)901号の変異株9号系統
10号1952年(昭和27年)東北地方の複数の蔵元の醪(明利小川酵母)1977年より頒布
1001号1984年(昭和59年)10号の泡なし変異株10号系統
11号1975年(昭和50年)7号の変異株7号系統
12号1965年(昭和40年)宮城・浦霞の醪(宮城酵母)現在は頒布されていない
13号1981年(昭和56年)9号と10号の交配株現在は頒布されていない
14号1991年(平成3年)金沢国税局鑑定官室が引き継いできた酵母群(金沢酵母)1995酒造年度から全国頒布
1401号1999年(平成11年)14号の泡なし変異株14号系統
1501号1990年(平成2年)秋田流花酵母(AK-1)。旧きょうかい15号7号の自然突然変異株と考えられている

年は教本の表の「分離・実用年」。12号は「山廃酒母にも向く」とされた酵母。教本P103

【1〜5号】(明治・大正に灘・伏見・広島から分離された初期の酵母)

灘・伏見・広島の蔵の
酒母や新酒
➡
分離
1906年(明治39年)〜1925年(大正14年)分離・実用
▼
6号以降とは系統が異なる

きょうかい1〜5号

灘・伏見・広島 いずれも現在は頒布されていない 1号は櫻正宗で復活醸造

明治期に酒造りにも西洋科学が導入され、優良酵母による酒造りが始まった。1号は灘、2号は伏見、3〜5号は広島の蔵から分離された酵母で、いずれも現在は頒布されていない。系統図では、1号から5号までの酵母は6号以降の酵母とは系統が異なることが明らかになっている。教本P102-103・P139-146

▼ 分離の歩み

1906年(明治39年)
1号:灘「櫻正宗」の酒母より分離
最初のきょうかい1号酵母も灘の酒蔵から分離された。現在は頒布されていないが、協会保存株を得て、櫻正宗にて復活醸造が行われている。
1912年(明治45年)
2号:伏見「月桂冠」の新酒より分離
明治期のきょうかい酵母の分離の際、灘に続く2番目の酵母は伏見の酒蔵の新酒から分離された。
1914年(大正3年)
3号:広島・醉心山根本店「醉心」の新酒より分離
1924年(大正13年)
4号:広島の蔵元の酒母または新酒からの分離とされる
1925年(大正14年)
5号:広島・賀茂鶴酒造「賀茂鶴」の酒母より分離

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

3・4・5号は広島から

1907(明治40)年の第1回全国清酒品評会では、広島の酒が上位を独占しました。大正年間には、きょうかい3・4・5号酵母が相次いで広島県内の酒蔵から採取されています。

Point 2

系統図での位置

3号と5号は近く、1号と4号はやや近い酵母です。ただし1号から5号までは、6号以降の酵母とは系統が異なります。

【6号 系統】(新政酵母:6号以後のきょうかい酵母の祖)

秋田・新政酒造「新政」の醪
➡
分離
1935年(昭和10年)分離・実用
▼
6号以後の酵母の祖

6号 (新政酵母)

秋田・新政酒造 発酵力が強い 穏やかで澄んだ香り・淡麗

秋田・新政酒造の「新政」の醪から分離され、「新政酵母」とも呼ばれる。発酵力が強く、穏やかで澄んだ香り。淡麗な酒質になる傾向がある。1935年に登場すると、その発酵力と芳香により広く使われるようになり、それまでのきょうかい酵母を駆逐するほどだった。教本P101・P103・P117-119

▼ 6号系統の歩み

1935年(昭和10年)
6号の分離・実用
昭和に入り、秋田県内の蔵の醪から分離される。
1960年(昭和35年)
8号の分離・実用
6号の変異株ということになっている(やや疑問符が投げかけられているよう)。
1973年(昭和48年)
601号の分離・実用
6号の泡なし変異株。
1978年(昭和53年)
8号の頒布終了
多酸で濃醇な酒に仕上がるということで頒布が終了し、現在は一般に流通していない。
2003年(平成15年)
8号で仕込む山口の蔵元
現代ならばニーズがあるはずと考えた山口の蔵元が醸造協会から購入し、2003年から仕込みを続けている。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

6号はそれ以後の酵母の祖

DNA解析の結果、6号はそれまでの酵母と明らかに区別され、6号以後のきょうかい酵母は相互に近縁関係にあることがわかっています。

Point 2

系統図での位置

2001年の系統図では、6号は7号・9号・10号などに近いけれど、やや異なる酵母とされています。

▼ 6号から生まれた酵母

泡なし 泡なし変異株
▶

601号

1973年(昭和48年)

6号を親株とする泡なし酵母。

変異 変異株とされる
▶

8号

1960年(昭和35年)

多酸で濃醇な酒に仕上がる酵母。1978年に頒布が終了し、現在は一般に流通していないが、山口の蔵元が2003年から仕込みを続けている。

【7号 系統】(真澄酵母:戦後の日本酒の基調酵母)

長野・宮坂醸造「真澄」
(諏訪の酒蔵の蔵つき酵母)
➡
分離
1946年(昭和21年)分離・実用
▼
現在も最も販売数が多い

7号 (真澄酵母)

長野・宮坂醸造 華やかな芳香 発酵力が強い

長野・宮坂醸造の「真澄」からの分離で、別名「真澄酵母」。華やかな芳香で発酵力が強い。戦後の日本酒の基調酵母とされ、大量生産期を支えた。現在も最も販売数が多い。教本P101・P103・P125-127

▼ 7号系統の歩み

1946年(昭和21年)
7号の分離・実用
第二次世界大戦後、諏訪の酒蔵において、蔵つき酵母が「きょうかい7号酵母」として分離された。爽やかな吟醸香と品のよい味わいがあり、全国新酒鑑評会で数年間にわたって上位を独占。酵母の優秀さとともに、長野県の酒造技術レベルの高さを世に知らしめた。
1969年(昭和44年)
701号の分離・実用
7号の泡なし変異株。
1975年(昭和50年)
11号の分離・実用
7号の変異株。
1990年(平成2年)
秋田流花酵母(AK-1)の誕生
のちのきょうかい1501号。7号酵母の自然突然変異株と考えられている(下の「1501号」を参照)。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

現在の主流は7号と9号

現在のきょうかい酵母の主流は7号と9号、そして701号や901号などの関連酵母です。701号と901号は、酒母工程を不要にする「清酒用乾燥酵母」としても販売されています。

Point 2

半世紀後にはアルプス酵母

7号の登場からほぼ半世紀後、またも長野県の新たな酵母が全国新酒鑑評会を席巻します。長野県食品工業試験場が開発した「アルプス酵母」です(下の「各県の酵母」を参照)。

▼ 7号から生まれた酵母

泡なし 泡なし変異株
▶

701号

1969年(昭和44年)

7号を親株とする泡なし酵母。「清酒用乾燥酵母」としても販売されている。

変異 7号の変異株
▶

11号

1975年(昭和50年)

アルコール耐性が強く、低温長期醪でもキレがよい。7号よりも酸がやや多く、とくにリンゴ酸が豊か。アミノ酸は少なく大辛口向き。

変異 自然突然変異株と考えられる
▶

1501号 (秋田流花酵母)

1990年(平成2年)

7号の近縁と思われるものの、カプロン酸エチルの生産性が高いなど異なる性質をもつ。

【9号 系統】(熊本酵母・香露酵母:吟醸酵母の定番)

熊本県酒造研究所
(「香露」醸造元)の保存株
➡
選抜
1953年(昭和28年)頃 分離・実用 / 1968年(昭和43年)全国頒布
▼
信用度の高い吟醸酵母の定番

9号 (熊本酵母・香露酵母)

(株)熊本県酒造研究所 低温長期発酵の吟醸酒造り向き 芳香でまろやかな吟味

「香露」醸造元の熊本県酒造研究所の保存株から選抜され、「香露酵母」「熊本酵母」とも呼ばれる。低温長期発酵の吟醸酒造り向きで、芳香でまろやかな吟味を備える。信用度の高い吟醸酵母の定番。著名なオリジナルの開発酵母として、まず挙げられるのがこの熊本酵母である。教本P103-104

▼ 9号系統の歩み

1909年(明治42年)
熊本県酒造研究所の設立
熊本県内の酒造技術向上のための「研究所」として、酒造業者の出資によって設立される。
1918年(大正7年)
株式会社化
1909年に設立された研究所が株式会社になる。
1953年(昭和28年)頃
9号の分離・実用
研究所の保存株から選抜される。
1964年(昭和39年)
熊本局管内で頒布
1968年(昭和43年)
きょうかい酵母として全国頒布
1975年(昭和50年)
901号の分離・実用
9号の泡なし変異株。
1981年(昭和56年)
13号の分離・実用
9号と10号の交配株。
2008年(平成20年)
KT901号の分離・実用
901号の変異株。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

「酒の神様」野白金一

熊本県酒造研究所は、のちに「酒の神様」と称されることになる野白金一を技師長として招聘し、熊本酵母の開発をはじめ、日本酒の酒質アップに大きく貢献しました。現在も希望する蔵には直接、酵母の頒布(熊本酵母KA-1など)を行っています。

Point 2

「YK35」の「K」

1990年代初頭以前、酒蔵は鑑評会で金賞を獲るための要件を「YK35」と呼びました。山田錦の「Y」、熊本酵母の「K」、精米歩合は35〜40%が大多数なので「35」です。当時の吟醸酒造りに使われた優良酵母は、きょうかい9号のほか、熊本酵母、金沢酵母(現きょうかい14号)、静岡酵母、各県の研究機関が選抜したいわゆる県酵母などでした。

▼ 9号から生まれた酵母

泡なし 泡なし変異株
▶

901号

1975年(昭和50年)

9号を親株とする泡なし酵母。「清酒用乾燥酵母」としても販売されている。

変異 901号の変異株
▶

KT901号

2008年(平成20年)

901号よりも酸(リンゴ酸、コハク酸)が多く、燗酒用や味に幅をもたせた酒質を望む場合に適すとされる。

× 10号
▶

13号

1981年(昭和56年)

9号と10号の交配株。アルコール耐性が強く、酸少なく、香り高いとされたが、現在は頒布されていない。

【10号 系統】(明利小川酵母:低温長期で酸が少なく淡麗)

東北地方の複数の蔵元の醪
➡
茨城・明利酒類で
小川知可良が分離
1952年(昭和27年)分離・実用 / 1977年(昭和52年)頒布開始
▼
淡麗で吟醸香が高い

10号 (明利小川酵母)

茨城・明利酒類 低温長期醪・酸が少ない アルコール耐性は弱い

茨城・明利酒類にて、東北地方の複数の蔵元の醪の中から小川知可良によって分離されたため、「明利小川酵母」とも呼ばれる。低温長期醪で、酸が少なく、淡麗で吟醸香は高いが、アルコール耐性は弱い。教本P103

▼ 10号系統の歩み

1952年(昭和27年)
10号の分離・実用
1977年(昭和52年)
頒布の開始
1981年(昭和56年)
13号の分離・実用
9号と10号の交配株。
1984年(昭和59年)
1001号の分離・実用
10号の泡なし変異株。

▼ 10号から生まれた酵母

泡なし 泡なし変異株
▶

1001号

1984年(昭和59年)

10号を親株とする泡なし酵母。

× 9号
▶

13号

1981年(昭和56年)

9号と10号の交配株(上の「9号 系統」を参照)。

【14号 系統】(金沢酵母:北陸から全国へ広がった吟醸酵母)

金沢国税局鑑定官室が
引き継いできた酵母群
➡
選択・試験醸造
1991年(平成3年)分離・実用 / 1995酒造年度から全国頒布
▼
バナナのような吟醸香

14号 (金沢酵母)

金沢国税局鑑定官室 酸は少なめ 低温下の発酵力に優れる

金沢国税局鑑定官室が引き継いできた酵母群の中から選択された酵母で、「金沢酵母」とも呼ばれる。酸は少なめ。酢酸イソアミルの香り(主にバナナの香り)が強く、柔らかでバランスのよい吟醸香を有するといわれる。低温下における発酵力に優れている。教本P103・P131-134

▼ 14号系統の歩み

1991年(平成3年)
14号の分離・実用年
教本の表の「分離・実用年」。
1992年(平成4年)
吟醸酒用酵母として試験醸造
1992年と1993年(平成5年)に試験醸造を実施し、実用化の確認を行う。
1994年(平成6年)
北陸限定で頒布
きょうかい14号酵母として、日本醸造協会が北陸限定で頒布を始める。
1995酒造年度
全国頒布
1999年(平成11年)
1401号の分離・実用
14号の泡なし変異株。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

県庁所在地名のついた酵母

金沢には国税局の鑑定官室があり、金沢管区内の醸造指導を行っています。ここで新規に分離され、酸が少なく口当たりがなめらかと高評価だったのが「金沢酵母」です。きれいな酸と雑味の少ない酒質で、口当たりよく、特に吟醸酒に向いています。

Point 2

YK35の時代の優良酵母

1990年代初頭以前の吟醸酒造りに使われた優良酵母として、きょうかい9号、熊本酵母、静岡酵母などとともに、金沢酵母(現きょうかい14号)が挙げられています。

▼ 14号から生まれた酵母

泡なし 泡なし変異株
▶

1401号

1999年(平成11年)

14号を親株とする泡なし酵母。

【1501号】(秋田流花酵母:県の開発酵母からきょうかい酵母へ)

秋田県と秋田酒造組合の
共同研究
➡
秋田流花酵母(AK-1)
1990年(平成2年)誕生 / 1996年(平成8年)きょうかい1501号として採用
▼
旧きょうかい15号

1501号 (秋田流花酵母)

秋田県・秋田酒造組合 泡なし性 カプロン酸エチルの生産性が高い

秋田県と秋田酒造組合の共同研究により1990年に誕生した「秋田流花酵母」(AK-1)が、1996年にきょうかい1501号酵母として採用された。旧きょうかい15号で、泡なし性のため現在は1501号と呼ばれる。低温長期醪の経過をとり、酸が少なく、吟醸香が高い。教本P103・P117

▼ 1501号の歩み

1990年(平成2年)
秋田流花酵母(AK-1)の誕生
秋田県と秋田酒造組合の共同研究から生まれる。
1996年(平成8年)
きょうかい1501号酵母として採用
旧きょうかい15号。泡なし性で、現在は1501号と呼ばれる。

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

7号の自然突然変異株

7号の近縁にあると思われるものの、カプロン酸エチルの生産性が高いことなど異なる性質をもっていることから、7号酵母の自然突然変異株と考えられています。

Point 2

県立の醸造試験場をもつ秋田

秋田県は全国でも数少ない県立の醸造試験場をもち、秋田県開発の酵母「秋田流花酵母AK-1」がきょうかい1501号酵母として頒布されるなど、酵母や麹の開発も進んだ酒造技術先進県です。6号も、昭和に入って秋田県内の蔵の醪から分離されました。

第3部:新しい酵母と各地の酵母

【香り酵母と新しいきょうかい酵母】(吟醸香を生む機能性の酵母)

脂肪酸合成酵素を阻害する
薬剤「セルレニン」
➡
耐性のある酵母を育成
1990年代中期に全国へ急速に広まる
▼
カプロン酸エチル高生産

香り酵母 (セルレニン耐性酵母)

月桂冠総合研究所などで開発 リンゴ様の華やかな香り 低温貯蔵が大切

カプロン酸は酵母の脂肪酸合成酵素によって生成されるが、通常、カプロン酸のような鎖長の短い脂肪酸は大量には生成されない。そこで、脂肪酸合成酵素を特異的に阻害する薬剤「セルレニン」に耐性のある酵母を育成して仕込んだところ、カプロン酸エチルが大幅に増加し、リンゴ様の華やかな香りの酒を造ることができたという。このカプロン酸エチル高生産性酵母が「セルレニン耐性酵母」(香り酵母)とも呼ばれるゆえんである。教本P21・P104-105

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

吟醸香の2つの成分

吟醸酒造りでは原料米を精米歩合60%以下に磨くため栄養成分が減り、発酵も10℃以下の低温で行われます。酵母はこのような厳しい環境に置かれると、果実のような香気成分を作り出すことが知られています。代表的成分は、リンゴ様の爽やかな香りのカプロン酸エチルと、バナナ様の甘やかな香りの酢酸イソアミルです。

Point 2

酢酸イソアミル高生産性酵母

京都・伏見の月桂冠総合研究所は、吟醸香成分を多く産出する酵母の開発を長年継続してきました。酢酸イソアミルの生成は、イソアミルアルコールの量と酢酸イソアミルを造る酵素の活性で決まります。そこで、イソアミルアルコールをたくさん造る酵母やこの酵素の強い酵母を選び、育種に成功しています。

Point 3

香り酵母の登場

1990年代中期、香り酵母が全国に急速に広まりました。最初に普及した最も代表的な香り酵母は、長野県食品工業試験場(当時)が県内の酒蔵のために開発した「アルプス酵母」でしょう。カプロン酸エチルの生成量は、当時の伝統的な酵母では金賞受賞酒でもせいぜい2〜3ppmでしたが、香り酵母には10ppmを超えるものがありました。麹の出来栄えが吟醸香の高低に与える影響も少なく、「熟練者でなくてもカプロン酸エチルの香り高い吟醸酒を造れる酵母」でした。

Point 4

夏越しと低温貯蔵

当初は、セルレニン耐性酵母を使った日本酒が夏をうまく越せず、香味のバランスを崩す吟醸酒が散見されました。その後は低温貯蔵の重要性が認識され、流通や販売時の保管にも気が配られるようになっています。最近の香り酵母の代表例は、きょうかい1801号酵母、明利M310酵母、県の開発した香り酵母などです。

▼ 新しいきょうかい酵母

近年、日本醸造協会では、華やかな香りを生む高エステル生成酵母、リンゴ酸が主成分の多酸酒を生む酵母など、機能を重視した酵母も頒布している。

酵母名 機能 来歴や特徴など
1601号少酸性酵母酸度は少なく、カプロン酸エチルを高生産。泡なし
1701号高エステル生成酵母酢酸イソアミル及びカプロン酸エチル高生産、発酵力が強い。泡なし
1801号高エステル生成酵母酢酸イソアミル及びカプロン酸エチル高生産。発酵力は強く、酸度は少ない。イソアミルアルコール(ムレ香成分の前駆物質)が各種きょうかい酵母中で最少。泡なし。2006年より頒布
KArg1901尿素非生産性高エステル生成酵母カプロン酸エチルが1801号よりも穏やかで、酢酸イソアミルは高生成。尿素に起因するカルバミン酸エチルの生成がない。泡なし。2014年に頒布を開始した
No.28リンゴ酸高生産性多酸酵母リンゴ酸が主成分であることを特徴とする多酸酒向き。リンゴ酸量が全有機酸の80%前後を占める。コハク酸は少ない。香気生成は7号と同じ。泡なし
No.77リンゴ酸高生産性多酸酵母No.28同様、リンゴ酸が主成分であることを特徴とする多酸酒向き。リンゴ酸量が全有機酸の60〜70%前後を占める。カプロン酸エチル高生産。泡なし
KArg-7、9、10号尿素非生産性酵母尿素を生産しない、泡ありの7号、9号、10号酵母
KArg-701、901、1001号尿素非生産性酵母尿素を生産しない、泡なしの701号、901号、1001号酵母
赤色清酒酵母—甘口ソフトタイプの桃色にごり酒用の酵母。醪で酵母の中に赤色色素を生産する

教本の表「新しいきょうかい酵母」より。教本P105

【各県の酵母・花酵母・蔵つき酵母】(地元の米・水・酵母で造る「地酒」)

各都道府県の醸造試験場・
工業技術センター・蔵元・大学
➡
オリジナル酵母の育種
1986年(昭和61年)静岡酵母の全国デビューが、各県の酵母開発競争の号砲に
▼
地元産の米・水・酵母で「地酒」を

各地の開発酵母

県の研究機関・蔵元・大学 花酵母 蔵つき酵母

各都道府県の醸造試験場や工業技術センター、蔵元、大学などでの酵母の育種も活発で、地元産の米、水、そして酵母を使った「地酒」造りを目指している蔵も少なくない。著名なオリジナルの開発酵母としてはまず、のちに「きょうかい9号」として頒布される熊本酵母が挙げられ、オリジナルの酵母開発に熱心な県は多い。教本P104

▼ 教本に出てくる各県の酵母

県 酵母 教本の記述 教本
青森県まほろば華酵母シリーズ青森県産業技術センター弘前工業研究所の酵母。華酵母・吟酵母・醇酵母・芳酵母の4種類で、香りの傾向とアルコール耐性がそれぞれ異なり、県内の酒蔵で広く使われているP113-114
秋田県秋田流花酵母AK-1など秋田県と秋田酒造組合の共同研究で誕生し、きょうかい1501号として頒布されているP104・P117
宮城県宮城酵母MY-3102などオリジナルの酵母開発に熱心な県の例として挙げられている(きょうかい12号も「宮城酵母」と呼ばれる)P103-104
山形県山形酵母KAなど「出羽燦々」(100%)を精米歩合55%以下まで磨き、山形酵母と山形オリジナルの麹菌「オリーゼ山形」で醸した純米吟醸酒を審査し、「DEWA33」の称号を与えているP38・P104
福島県うつくしま夢酵母福島県ハイテクプラザが開発した県初のオリジナル酵母。酒造好適米「夢の香」との組み合わせで「夢の米・夢の酒」とブランディングされ、福島県春季鑑評会には「夢の香の部」があるP41・P121-124
長野県長野アルプス酵母など(アルプス酵母)1985年以降の吟醸酒ブームで、香り高い酵母の開発が各県や酒造メーカーで進められる中、長野県食品工業試験場が開発。吟醸香の成分カプロン酸エチルを大量に生成し、登場してすぐに大人気となった。「デリシャスリンゴを思わせる香り」のパイオニア酵母P21・P104・P127
石川県金沢酵母金沢国税局鑑定官室で分離され、1994年からきょうかい14号酵母として頒布P131-134
静岡県静岡酵母HD-1など1980年代に静岡県酒造組合と静岡県工業技術センターが協力して開発した、県開発酵母の走り。醸造指導に当たった河村伝兵衛技師の力もあって、全国デビューした1986年の全国新酒鑑評会で入賞率全国一(金賞受賞数も全国一)となり、「吟醸王国静岡」と呼ばれるようになった。当時の静岡県工業試験場の研究と指導の賜物とされ、静岡酵母と軟水による吟醸仕込みで、酢酸イソアミル系の香りと低い酸、きれいで滑らかな吟醸酒が特徴P104・P133-136
広島県広島21号酵母などオリジナルの酵母開発に熱心な県の例として挙げられているP104
山口県やまぐち・桜酵母、やまぐち山廃酵母、山口9H酵母、山口9E酵母など山口県産業技術センターが開発。桜の花から採取した「やまぐち・桜酵母」、酸とアミノ酸を多く生成し生酛や山廃造りに向く「やまぐち山廃酵母」、吟醸向きの「山口9H酵母」、発酵力が高い「山口9E酵母」などP104・P147-148
高知県高知酵母KW-77など、CEL酵母高知県工業技術センターが平成初めから新酵母を続々と開発し、実際に使われている酵母は約20種類。月桂冠の特許を元に、セルレニン耐性をもつ高カプロン酸エチル生成酵母「CEL酵母」を開発し、高知県酵母の代名詞となったP104・P149-152
福岡県ふくおか夢酵母(1〜4号)福岡県工業技術センターが開発したリンゴ酸高生産酵母。爽快感や後味のサッパリした風味が特徴P153-154
熊本県熊本酵母KA-1など熊本県酒造研究所が、現在も希望する蔵に直接頒布している。熊本酵母はのちに「きょうかい9号」として頒布されたP104

▼ 押さえておきたいポイント

Point 1

花酵母

現在の主流は、旧・東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室の中田久保教授(現在は名誉教授)が分離したものです。多くの清酒酵母が酒母や醪、新酒を分離源とするのに対し、自然界の花から酵母を分離する方法を確立し、桜やコスモス、ナデシコ、いちごなど約30種の花酵母が生み出されました。奈良の「ナラノヤエザクラ酵母」や山口の「やまぐち・桜酵母」など、酒蔵のある土地にゆかりの深い花から酵母を開発する産官学連携の動きもあります。花酵母はストレートにその花の香りを生成するものではありませんが、既存酵母にはない特徴ある香味を生む可能性を秘めています。

Point 2

蔵つき酵母

酒蔵の建物や床土などに棲みつく「蔵つき酵母」を、あらためて培養して用いる動きもあります。生酛系酒母で優良酵母を添加しない場合は、蔵に棲む酸性に強い酵母(蔵つき酵母)が増殖を始めます。7号も、諏訪の酒蔵の蔵つき酵母から分離されました。

Point 3

ワイン酵母の日本酒

日本酒の多様化を目的に、ワイン酵母で醸造された日本酒も造られています。ワイン酵母の酸の多さを活かした甘酸っぱい酒質のものが多くなっています。



【復習クイズ】清酒酵母の系譜

上で学んだ内容からランダムに20問が出題されます。知識を定着させましょう!

  • 選択肢1
  • 選択肢2
  • 選択肢3
  • 選択肢4